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好きなものは、コンビ萌え

岩下悠子著「漣の王国」

科捜研の女や相棒でおなじみの脚本家、岩下悠子さんの「漣の王国」を読みました。

本当に小説家としてのあまりの手腕に驚き、ちゃんとご紹介したいなとブログを久しぶりに。

ただ、ちゃんと説明できるだけの語彙力を私が持ち合わせていないのと(笑)、ミステリーなので内容のことはお話したくないなと思います。

 

じゃあなにをするか、というと、

読んでいたときに「科捜研の女」でこんなのあったなあって思い出したことがいくつもあったんですよね。

なので、そこから類似性を見出して、小説を読んだときにこんな楽しみがあったよとご紹介させていただきたいと思います。

漣の王国

 

この本の表紙を見たときに、帯も含めて頭に浮かんだのは、科捜研の女シーズン15の第2話「見えすぎた女」のオーロラ。

”見えすぎる”能力ゆえに、それを振りかざして絵にうまく表現することができなかった女性が、最後にみた風景。大文字山の上に浮かぶ怖いくらい美しいオーロラ。

「漣の王国」はその風景を耽美でかつ流麗な言葉でその風景をひとつひとつ丁寧に表現されています。ドラマとは違う、絵の力に頼らない言葉だけの描写に心が打ち震える感覚。小説を読む醍醐味を思い出させてくれました。

 

そして、たとえばそのオーロラが彼女にどう見えていたのか、彼女が本当に伝えたいことはなんだったのか。

「見えすぎた女」が見たオーロラ、つまり「本物の四色型色覚者が見ていた風景」をどう表現したのかは、東映の公式HPに書いてあります。

彼女の見ていた風景を直接表現するのではなく、それを見ていた彼女の心情を想像させるように演出してくれました。まさに劇中の仙川教授のように、目に見えているものだけではなくその腹の中にあるものを表現したのです。(原文ママ

www.toei.co.jp

 

映像作品はやはり目からの情報が一番にくる。ただの風景ではない、彼女の想いをすべて表現する絵がバーンと一面に出て、マリコさんがこう思ったんじゃないか、と言葉を添える。

その言葉が真実かは分からないけれど、科捜研の女という白か黒かはっきり答えを出して真実にたどり着くマリコさんが意外と情に厚い人間だと示しているわけですね。

 

「漣の王国」も命を落とす人間がいますが、どうしてその「決断」をしたのかは読み手にかなりたくされていると思います。それをひとつひとつ掬い取りたい気分にさせられるのがカタルシスになったかも。

 

岩下悠子さんの脚本回は、オーロラのほかに星(S17-13)や蝶(S18-6)を扱った回もあって科学を幻想的なものも多く、児童文学(S16-10)に仏像(S14-7、16-14)に盆栽(S15-15)に・・・と事件に絡む題材が幅広い印象があります。折鶴もあったような・・・。

それを魅せて美しく語る一方、出てくる人々の優しさも愚かさもさらけ出すようなギャップがあり、何がいいのか悪いのかは一切断罪もせず語らずに終わっていく…時には後味の悪いお話もあります。今回はどんな話だろう?でも見終わったあとどんな気持ちを自分は抱いているのかな…と少し期待して少し怖くなる…。同じS15の第15話「悪の枝」なんてその最たる例だと思います。

www.toei.co.jp

 

あと一番すきなのは高橋和也さんが超怪しい話(S13-8)とか、石丸謙二郎さんの見当たり操作の話も(S17-15)!化学を人間ドラマに落とし込むのがすごく巧みだなと思います。

でも結局どんな話であれ、謎が解かれていく過程を心から楽しめるのです。

小説も同じでした。ええー!!と驚いたのがほとんどですが、少し先が読めたとしてもどんな文章でどう表現されていくのかドキドキする。最後までそのモチベーションが衰えなかったです。

 

京都の狭いコミュニティの中で、漣のように人間の心の揺れが小さくじわじわと広がっていく話の下敷きには、仏教にキリスト教イスラム教にとなんだかシルクロードでもめぐっているような、しかしながらその東の果てにいきついた土地でそれがつながっていくような不思議な…神秘的なものを感じるからでしょうか。

・・・あまりネタばれしたくないのですが、私は北里舞という登場人物が好きで。

彼女は想い人を「かれ」と呼ぶのよね。その言葉を選ぶ理由が、最初は安易に感じたけど、ところがどっこい!とてもせつなくて愛おしいのです。それを作品に取り入れる岩下さんの含蓄の深さに舌を巻きました。

 

科捜研の女と同じ京都を舞台に描かれているので、ドラマを見ている人にはぜひ読んでほしいなと思いまして、ドラマに絡めて書いてみました。おすすめです。