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好きなものは、コンビ萌え

「優しさ」の意味の移り変わり

5月1日、令和の時代の幕開けに昭和の、しかも戦前に日本で演奏された洋楽を楽しむという企画「レビュー ニッポン・モダンタイムス」を観に行きました。

2月の宝塚OG公演「ベルサイユのばら45」で日向薫ネッシーさんを生で見て、宝塚以外の歌をうたってるところがみたいなあ…と、思い切ってチケットを取ったのです。

大学時代に輪島裕介さんの本を読んで、戦前から戦後にかけて日本がどのように洋楽を受容していったのか…すごく面白い分野だと思っていたもので、もともと観に行きたいなとは思っていたんですけどね。

日本海側から東京へ行くのは時間がかからなくなりましたが、行く決断をするのはかなりエネルギーがいるものです。背中を押したのは学びたい気持ちよりも、大好きな人に会いたい乙女心でした(笑)。

創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史 (光文社新書)

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踊る昭和歌謡 リズムからみる大衆音楽 (NHK出版新書)

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宝塚OGが出演する公演に遠征するようなるとは…と自分でも驚いています。

一昨年、剣幸・ウタコさんに出会うまで、宝塚を卒業したタカラジェンヌを見るのは本当にせつないものだったから。

男役から美しい女性に変わっていく姿を見るのは、夢から覚めて現実に引き戻される感覚に似ています。男役は10年以上もかけてつくり上げられますが永遠に続くものではなく、1番脂ののったときのあの輝きは刹那的なものです。だからこそ美しく儚い。

でも、ファンの心にはその美しさが一生刻まれます。忘れられないこそ、宝塚とは違うフィールドで生きるタカラジェンヌがOG公演で現役時代の持ち歌を歌うのもどこかむず痒い。どこか申し訳ない気持ちにもなる。なんて身勝手なんでしょう(笑)。

 

でもウタコさんに出会って考えがガラリと変わりました。

女優として歩んでこられた「今」を好きになって、その後に現役時代の映像を見たので、時を経ても変わらないものがある尊さと、現役時代からさらに今もなお進化することができる恐ろしいほどの伸びしろに(笑)心から感動したんですね。

ウタコさんの現役時代を知らないからこそ、考えが変わったと思います。宝塚が全てではない。卒業してからが長いのだと。その道筋の先にウタコさんのような歩みを止めない素晴らしい方がいた。だからこそネッシーさんの「今」が知りたいと思うこともできました。

 

さて、なんでこんなにネッシーさんにお熱なのか…ですが(笑)。

最初はあの極彩色のオーラにしてやられたわけですが、私が現役時代の映像で一番好きだなと感じたのはあの優しい佇まいです。

ネッシーさんが相手役さんを見つめるときのあの優しく包み込む感じがすごく好きなんですね。デュエットダンスなんて「これだけ大切にされたらたまんねぇだろうなシギちゃん…」とため息が出ます。

でもそんな甘い感じを期待して(笑)歌劇や宝塚グラフを読むと、ネッシギってすごくサバサバしたコンビなんですよね。ネッシーさんはシギちゃんに対して「しっかりした考えを持っているんですよ」とよく褒めています。奥手だけど芯の強いシギちゃんをよく理解していますよね。ふたりともお育ちがよいのだろうなぁ…。だからこそ信頼関係も生まれるし、何をやっても受け入れるよという包容力も感じることができる。一人の舞台人として、人間として尊重している姿勢が強く感じられます。

ベルサイユのばら'89 フェルゼン編」はそういう関係性を考えるとちょっとおもしろい。フェルゼンはマリーアントワネットを唯一、ただの一人の女性として愛しているからこそ時代に引き裂かれてしまう。ネッシーさんのフェルゼンはマリーアントワネットを深く強く愛していながら、女王として死ぬことを選ぶ彼女を尊重している感じが強く出ているところが独特なんですよね。シギちゃんのマリーアントワネットは愛らしい外見とは裏腹に、毅然としてフランスの女王として死んでいく誇り高さが印象的です。死なせたくないという思いとの鬩ぎ合いがありながら、諦念が一緒に滲み出る。ネッシーさんの持ち味が活きたベルばらです。トップ時代の作品はあっさり系が多いですが、どれだけ深く愛していても、他人の人生をとやかく言えるはずはないという虚無感があるからでしょうね。

 

 

5/1のコンサート、私は「ディガ・ディガ・ドゥ」を聞きに行きました。でもなにより心を打ったのは「君微笑めば」。

すごくシンプルな歌だけど、ネッシーさんが歌うとより優しさに溢れた歌になる。微笑んで、と投げかける人間が微笑んでいてくれるから幸せが生まれるんですよね。太陽のように光り輝いて笑っていてくれるから、聞いてるこっちは本当に涙が止まらなくて……いっぱい元気をもらいました。

ネッシーさんの声って当時から優しい声でしたけど、伸びやかさが備わってより温かさがより感じられるようになってますよね。男役のときに漂っていたあの「虚無感」は、女性としての柔らかさによって「思いやり」に変わっています。いろんな曲が聞いてみたいなと思わせるパフォーマンスでした。磨きつづけてるよね……また会いに行きたいです。